微生物バイオマス農法でつくる「いちご」(土耕栽培)
いちご栽培の名人が重視した「水を切る」技術と、C/Nバランスで生殖成長をコントロールする考え方
高品質・高収量を実現するいちご栽培の名人たちは昔から、「水を切る」ことで花芽分化を促す高度な技術を使ってきました。
これは単なる“ストレス”ではなく、
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根から吸う水と窒素を意図的に抑える
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水を抑えることで吸窒が止まり、光合成が強まる
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その結果、植物体内で 炭素(糖)>窒素 の状態を作る
という 生殖成長(花芽)をつくるための明確な操作 です。
C/Nバランスで成長方向が決まる(北海大学大学院・佐藤長緒准教授)
北海大学の佐藤准教授が示した理論では、植物は体内の C/Nバランス によって成長方向を決めます。
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炭素C > 窒素N → 生殖成長(花芽・果実)
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窒素N > 炭素C → 栄養成長(葉・茎)
名人の“水を切る”技術は、この原理そのものです。
ただしこれを水管理だけで実現するには、
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土壌構造
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通気性
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保水性
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根量
すべてが揃っていないと成り立ちません。だからこそ、再現が難しく“名人芸”と呼ばれてきました。
Nを減らすのではなく「Cを増やす」現代的アプローチ
ここで登場するのが 「エキタン有機+炭水化物施用」 という考え方です。昔のように極端に水を切ってN吸収を止めるのではなく、
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アミノ酸で根の活動とホルモンバランスを整え
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炭水化物で光合成産物(C)を補い
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体内のC量を主体的に増やす
ことで 意図的に C/Nバランスを生殖成長側へ引っ張る。
つまり、
名人技の“本質”を、誰でも再現できる形に落とし込んだのがこの方法です。
温暖化による栽培への課題
温暖化の影響は東北地方でも年々はっきりと現れています。夏期の高温化、渇水、そして極端な天候の増加が、栽培環境をこれまでにないほど不安定にしています。
高温になると、植物は体温を維持するために呼吸が浅く早くなり、光合成で蓄えた**炭素C(糖)**を消費してしまいます。本来なら成長や果実肥大にまわるエネルギーが“体力維持”に使われてしまうため、植物内部の炭素ストックが目減りしやすくなります。
一方で、地温の上昇によって、施肥した窒素だけでなく、土壌中の有機物からも窒素Nが溶け出しやすくなるため、植物は意図せず多くの窒素を吸収してしまいます。
その結果、栽培は**N優位(窒素過多)**へと傾きやすく、
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根の更新が鈍る
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病害が出やすくなる
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花芽が不安定になる
など、植物にとって“成りたがらない生育”が起きやすくなります。
いま求められているのは、どうやってC/NバランスをC(炭素)優位へ戻すか。
温暖化期の栽培は、まさにここが最大のテーマになっています。
炭素C優位がもたらす花芽の安定と病害の減少
C優位の栽培を3年以上続けている生産者からは、
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花芽分化の安定
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うどんこ病の明確な減少
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場合によっては薬剤散布ゼロ
といった変化が報告されています。
これは、
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同化産物(糖)の供給が安定
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ストレスの少ない生殖成長へ体が整う
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根量の増加 → 微生物層の改善 → 病気に“負けない株”へ
といった複合効果の結果です。
根張りと果実肥大をつくる「オーキシン」
植物ホルモン オーキシン(IAA) は“根張りホルモン”とも呼ばれ、
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頂芽(新葉の先端)でつくられ
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下方向へ移動しながら
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根の再生・伸長を促す
という働きをします。
根を再生するために必要なのは、
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アミノ酸(細胞の材料)
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核酸=リン(分裂のエネルギー源)
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植物ホルモン(再生のスイッチ)
さらに近年は、
根圏の微生物自身もアミノ酸を代謝してオーキシンやサイトカイニンを作る ことが分かってきました。
エキタン有機+炭水化物灌水が“ホルモンの供給源”になる理由
アミノ酸+炭水化物を定期灌水することで、
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微生物のエサを確保
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微生物が増殖
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微生物が植物ホルモンを代謝・供給
という循環が生まれます。
つまり、
植物自身のホルモン+微生物由来ホルモンが同時に働く環境 になるため、根の動き、花芽、果実肥大の安定性が高まります。
オーキシンが十分な株はどうなるか?
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細根が深く細かく張る
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ランナーと側枝の動きが安定
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花芽が揃いやすい
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ストレスに強い
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変形果が少ない
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微生物ホルモンにより“根が止まらない”株になる
つまり、
C優位 × アミノ酸 × 微生物 → 生殖成長が揃う株
という仕組みが成立します。
頂芽優勢がよく表れた果実の“順次肥大”
写真の株は、オーキシンによる 頂芽優勢 がきれいに働いています。
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一番果が先に赤く大きくなる
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二番果・三番果はその後ろで待機
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果実が“列”になって順番待ち
これはホルモンバランスが良く、根が動けている株の典型です。
▶︎ 頂芽優勢とは?
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頂部でつくられたオーキシンが
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下方向へ流れ
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最も早く形成された果実へ栄養を優先配分する性質
そのため、
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一番果が肥大 → 着色
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一番果を収穫すると二番果が動き出す
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二番果を収穫すると三番果が太り始める
という リレー式の肥大サイクル ができます。
なぜ順次肥大すると大果が多くなるのか?
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1つの果実に十分な資源(糖・アミノ酸・水・ホルモン)が集中
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肥大が安定し形が揃う
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次の果実へスムーズにバトンタッチ
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小粒果が激減
つまり、
頂芽優勢が働く株ほど “大粒連発” が自然と起こる ということです。
さらに本質的な話
エキタン有機+炭水化物灌水を続けると、この“頂芽優勢”が乱れにくくなります。
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根が止まらない
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微生物ホルモンの供給が途切れない
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C供給が豊富
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N過多を防いで過繁茂を抑える
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果実肥大が一定リズムで流れる
→ 肥大順序が美しい株 が増える。
微生物バイオマス農法とは?
微生物の“循環力”と植物の“再生力”を最大限に引き出す栽培体系です。
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土中:微生物増加→ 養分化 → 微生物バイオマスの循環
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植物:細根の再生 → 蒸散による水分・養分循環
この 土中循環 × 体内循環 × 根の健全性 が途切れなく回ることで、
いちごは強く・大きく・安定して育ちます。
エキタン有機+炭水化物灌水の意味
定期灌水により、
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微生物のエサを安定供給
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増加→ 養分化サイクルが止まらない
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細根更新が途切れない
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根圏がふかふかで酸素が通る
という「微生物活性の安定化」が起こります。
その結果、
✔ 大粒化
細根が常に新しく、吸収力が高い。
✔ 品質向上
根域環境が安定し、実の充実・糖度の伸びにつながる。
✔ 生育のブレが小さい
高温・乾燥・湿害の影響を受けにくい。
これはいちごに限らず全ての植物で再現される現象です。
